今回は2つの通貨を組み合わせるトレード手法=合成通貨の考え方を解説します。国内FX会社では取り扱いの少ないEUR/TRY(ユーロトルコリラ)。この通貨ペアを例として、クロス通貨の基本を解説。円高リスクをヘッジする応用手法にまで触れます。
トルコリラの通貨ペアは3つの通貨ペアがメジャーです。トルコリラ円(TRYJPY)、ユーロトルコリラ(EURTRY)、ドルトルコリラ(USDTRY)です。ただ、多くの国内FX業者ではトルコリラ円の扱いしかありません。一見すると対ドル、対ユーロでの取引はできないかのように思えます。
この問題は合成通貨を自分で作ることで解決します。例えばユーロトルコリラなら、トルコリラ円の買いとユーロ円の売りで解決。合成通貨を自分で作ることで、実質的にユーロトルコリラのポジション保有が可能です。円高懸念が生じている局面ならドル円売りでリスクヘッジをかけることもできます。
応用すればトルコリラ対豪ドル(TRY/AUD)のような、本来あり得ない組み合わせも可能です。スワップポイントをプラスにしつつ、日本やアメリカの状況に左右されない。そんなリスクヘッジができるようになります。今回は合成通貨を使ったトレードの方法をご紹介します。
国内証券はトルコリラ円のみの扱い
はじめに、国内証券におけるトルコリラ通貨ペアの取り扱いを見てみましょう。とは言うものの、実際問題としては、国内資本の証券会社では、ほとんどの場合、トルコリラ対日本円の通貨ペアしか扱っていないのが現状です。本サイトで紹介している証券会社の取り扱い通貨ペアは、下表のようになっています。
国内/海外資本 | FX会社 | 取り扱い通貨ペア |
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国内資本 | セントラル短資FX | トルコリラ円 |
外為どっとコム | ||
くりっく365 外為オンライン 岡三オンライン証券 |
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マネースクエア | ||
ヒロセ通商 | トルコリラ円 ドルトルコリラ ユーロトルコリラ |
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海外資本 | AVATRADE | トルコリラ円 ドルトルコリラ ユーロトルコリラ |
OANDA Japan |
ご覧の通り、トルコリラ円以外の2通貨ペア(EURTRY,USDTRY)を扱っている国内FX会社は、ヒロセ通商のみです。ヒロセ通商の口座を持っていれば話が早いのですが、そうでない方が大半でしょう。それでも簡単な話、ヒロセ通商の口座を開くのが手っ取り早い解決方法です。
参考記事:ヒロセ通商は使い勝手で選ぶ
もっとも、複数の証券口座に渡って資金を振り分けていると、トルコリラ円でしか取引をできない口座でユーロリラを取引したいなんて状況もざらにあります。欧州で大規模金融緩和が始まっていることを考えると、EURTRYを扱うことができないのも勿体ない感じもしますしね。うまくすれば円安に進んでトルコリラ円も上がるでしょうが、ユーロ安の恩恵を受けることができないという課題も残ります。
合成通貨でユーロトルコリラをショート
前述の問題を解決するには、2つの方法があります。繰り返しになりますが、一つ目は素直にトルコリラ対ユーロの取り扱いがある証券会社を利用する方法です。国内証券なら3通貨を扱うヒロセ通商。国内証券にこだわりがなければ、さらに種類豊富な外資系証券が良いでしょう。AVA Trade(アヴァトレード)やOANDA Japan(オワンダジャパン)が選択肢として挙がります。
外資系証券会社のシステムは英語混じりであることが多いので、初心者にはとっつきにくいこともあるかも知れません。そこでもうひとつの選択肢が浮上します。それが合成通貨を使ったトレードです。
例えば、トルコリラ対ユーロの買いを行いたい場合は、トルコリラ円を買い、同量のユーロ円を売ります。これで実質的にトルコリラ対ユーロを買ったことになります。
- トルコリラ円30,000通貨買い(1リラ40円) → トルコリラ買い・円売り
- ユーロ円10,000通貨売り(1ユーロ120円) → ユーロ売り・円買い
- 円売り・円買いが相殺されて、トルコリラ買い・ユーロ売りが完成。
実質的にトルコリラ対ユーロ(EUR/TRY)で30,000通貨保有していることになる。
簡単な話、円を仲介させてトルコリラの買いとユーロ売りを行うということですね。実質的にトルコリラ対ユーロ(TRYEUR)の通貨ペアポジションとなる訳です。これで、トルコリラの上昇とユーロの下落の一挙両得を狙えます。
このように、間にひとつの仲介通貨を挟んで作った通貨ペアを「合成通貨(クロス通貨)」と呼びます。本来は世界の基軸通貨である「ドル」を挟んで作る通貨ペアを指すのかも知れません。例えば、豪ドル円(AUD/JPY)ならば(AUD/USD)×(USD/JPY)というクロス円通貨の典型ですね。実質的に仲介させる通貨は何でも良く、今回のケースでは便宜的に円を仲介させてクロス通貨を作ってみました。
合成通貨でリスクヘッジ
ここまで書いた方法を使えば、あらゆる合成通貨を自分で作ることが可能になります。これを応用すると、本来はありえないような組み合わせも可能です。リスクヘッジも可能ですし、一番売られる通貨と一番買われる通貨を組み合わせることもできます。例えば、以下のような組み合わせです。
外資系FX会社だと普通にある組み合わせですが、TRY/JPY(トルコリラ対円)しか扱っていないのが国内資本のFX会社。そんなTRY/JPYオンリーの口座でもトルコリラを対ドルレートで扱うことができます。
具体的には、トルコリラ円買いのドル円売り。これで実質的にTRY/USDの買いポジションを持ったことになります。トルコリラは上がりそうなんだけど、円高が心配という局面にマッチしています。
トルコリラ円を買って、豪ドル円を売り。金利の高いトルコリラを買って、オーストラリアドルの売りでリスクヘッジ。どちらもスワップ目的で保有される通貨ペアなので、市場のリスクオン・オフに左右されません。純粋に、トルコ経済の伸び代だけをすくい取るポジションになります。
最近は、鉄鋼や石炭の下落で豪ドルが下落中。金融政策として緩和路線(豪ドル安)にも舵を切ったこともポイントです。
リスクテイクで買われる新興国通貨(TRY)とリスクテイクで売られる安全通貨スイスフラン(CHF)の組み合わせ。リラ買いフラン売りで臨むなら、かなり攻撃的なリスクテイクポジションになります。
リスクテイクで買われる外貨の順番は以下の通り。
トルコリラ>米ドル>日本円>スイスフラン
間にある米ドルと日本円をすっ飛ばす方法論です。市場のリスクオンムードが高まれば、トルコリラ買いで一気にレートが上がります。逆に、リスク回避になるとスイスフランが買われて大幅下落に。諸刃の刃。攻撃的に為替差益とスワップ利益の両方を狙う組み合わせです。
実際の所、上記のような組み合わせは、ヘッジファンドのトレード手法でも用いられる方法です。これでリスクを限定したり、逆に積極的に差益を狙っていく訳ですね。取り扱い通貨ペアの少ない証券会社であっても、合成通貨を作ればトレードの幅が広がりますね。インドルピーや人民元の取り扱いがある証券会社であれば、さらに豊富な合成通貨ペアを作ることも可能でしょう。
ハイレバレッジに要注意
最後に一点だけ、今回の手法のデメリットを上げましょう。それは、表面上の利回りが低下してしまう点です。例えば、EUR/TRYの合成通貨を作る場合、トルコリラ円のロングポジションとユーロ円のショートポジションの両方を作る必要があります。当然ながら、倍額の証拠金が必要になります。
今回ご紹介した方法論は投入資金が大きくなりがちです。ハイレバ運用には向かない点に注意してください。もっとも、トルコリラの特に長期運用向けのポジションならばそもそもレバレッジを上げてはいけません。例えば積極的なヘッジファンドであっても、レバレッジはせいぜい10倍程度までしか上げていないことは知っておきましょう。
円建て通貨を組み合わせる場合とEUR/TRY通貨ペア一本で取引する場合を比較しても、利回りは変わらないし、スプレッドコストも大差ありません。唯一、投入金額に対してレバレッジが減ってしまうことだけが難点となります。まあ、スワップポイント目当てでポジションを保有する場合は資金に余裕を持たせるべきなので、レバレッジの管理さえ適切に行えばよいとも言えます。
リスクヘッジのコストについて
コストの点では、メジャー通貨がごく低スプレッドで売買できることも知っておいてよいでしょう。昨今のスプレッド競争の末、メジャー通貨の決済にはコストをほとんど必要としなくなりました。ドル円で0.5銭程度、ユーロ円でも1銭程度が相場です。
本質的には、OANDA JapanのようなUSD/TRYとEUR/TRYも扱う外資系FX会社を使えば、今回のような手間は必要としません。ただセントラル短資FXやくりっく365のようなトルコリラ円専門のFX会社でトレードしたい場合は、合成通貨を自分で作る必要が生じます。その際、今回のヘッジ手法は知っておいても損はないでしょう。豆知識をご紹介してみました。