今回は、トルコの政策を大きく左右するキーマン。暴君エルドアン大統領に焦点を当てて、管理人の認識を述べてみようと考えます。
トルコ政治を代表する人物と言えば、エルドアン大統領を差し置いて他にいません。議会では反対派を糾弾し、時に中央銀行にまで圧力をかける。かつてトルコ首相だった同氏は、現在では大統領の地位に立ち、さらにワンマン振りに拍車がかかりました。
共和国制のはずのトルコにあってはならない髭の独裁者。今日は、トルコのキーマンであるレジェップ・タイイップ・エルドアン氏に焦点を当て、その政治志向を読み解いていきたいと思います。全部、管理人の独断と偏見による見方です。
ワンマン振るう国内政治
トルコ絡みの為替や株式、ニュースを扱う方にとって、エルドアン大統領と言えば、暴君以外の何者でもないでしょう。かなりのダーティな一面を見せつけてきました。ここ数年でやらかしただけでも、ざっと以下のような出来事があります。
- 政府批判を押さえるためにtwitterアクセス遮断
- 汚職事件に関与したとされて疑惑の渦中に
- 女性蔑視でフェミニスト団体から批判を受ける
- 議会で中銀総裁を名指しで批判
これらの事件を鑑みるに、エルドアン首相=ワンマンでダーティーというイメージが定着しているのではないでしょうか。実際、最近になってからは海外紙からも独裁者の批判を受けています。個人的には、パワフルで粗野な戦後の政治家。日本の田中角栄が例に出されることが多々ある人物です。
過去には反政府活動で投獄された経歴も持つ同氏。トルコの民主化と共に政治家として返り咲き、イスタンブール市長の座に尽きました。そんな同氏も首相を経て、今ではトルコの大統領です。今回は、そんなエルドアン大統領の人間性を経済活動に焦点を当てて振り返っていきたいと思います。
外交・投資誘致には積極的
エルドアン現大統領の一番の実績と言えば、デノミ実施後の経済復興を成し遂げたことでしょう。ご存じの通り、トルコはかつてハイパーインフレに見舞われ、経済が破綻した過去を持つ国です。同氏はその逆境に挑み、どん底にある経済状況を建て直し、トルコ経済の再独立を成し遂げました。
経済が絡む政治活動として、目立つポイントは2点。外遊と投資誘致です。同氏は自ら先進国諸国を回り、トルコへの投資を呼びかけてきました。日本も例外ではなく、2013年に次いで今年も訪れています。特に日本の原子力とインフラ整備事業に熱いラブコールを送ったとされています。
投資誘致の活動は、主に税率軽減の政策を通じてなされています。トルコでは外資系企業の法人税が特別に減税されるインセンティブがあるのですね。実際、この優遇策により、世界中の自動車メーカーが工場を構えるようになりました。ここら辺の政策は、トルコ政府のキャンペーンページinvest in Turkeyにも見ることができます。
いずれの活動も、外貨をトルコに呼び込むことが目的なのでしょう。天然資源に乏しいトルコでは、外貨獲得の手段が今のところ観光産業しかありません。大統領は、経済黒字を実現するために首相時代から自らの足を使って投資を呼びかけてきました。最近では、トルコで開催されたG20財務首相会議でも投資呼びかけを行ったことが報じられています。
インフラ整備に関する政策
エルドアン大統領の国内向けの政策志向を考察してみましょう。同氏の率いるAKPが重要視するのがインフラ整備です。トルコでは、ざっと以下のようなインフラ工事が着手・完了しています。
- イスタンブール第三空港(2016予定)
- 高速鉄道・既存鉄道拡大構想(2023年予定)
- イズミット横断橋着手(3000mの大吊橋)
- ダーダネルス海峡吊り橋構想
- カナル・イスタンブールプロジェクト(イスタンブール運河)
トルコは新興国なので、インフラ整備が必要なのは当然かもしれません。もっとも、これらの建設計画が特異なポイントは、いずれも外資やODAなど、他国の資金を当てにしている点です。それらの資金は当時首相であったエルドアン氏が足で集めた資金なのでしょうか(それゆえか、2013年には、インフラ事業に絡んで汚職の疑いを着せられることになりました)。
インフラ開発事業には日本からのODA案件も含まれ、前述のイズミット横断橋はIHIが受注していますね。日本のインフラゼネコンにとっても、トルコは胸躍るフロンティアなのでしょう。先に述べたように、来邦した際は、日本のインフラ事業に熱いラブコールを送っています。どうやら、エルドアン大統領と日本のインフラ企業は相思相愛の間柄のようです。
経済政策に対する思考回路
ここまでは華やかな実績を語りましたが、一方では同氏の内政は以前から問題視されています。経済的な点については、管理人も何度かブログで触れてきました。一番の問題点と考えるのが、やはりトルコ中銀への利下げ圧力です。当時首相であったエルドアン氏は、2013年頃から国会で中銀の利上げ施策批判を繰り返してきました。実際問題、中銀が圧力に負けて、利上げ後わずかな期間で利下げに屈した事実もあります。これは中銀の独立性を損なう不健全な体制です。
それでも同氏が利下げにこだわる理由は、一説には国民の人気取りであると言われています。政策金利が下がれば、トルコ国民の借り入れ金利も下がります。結果として企業活動や商売がやりやすくなると言われているので、支持率が上がると考えているのでしょう。もっとも、先日の選挙で与党が敗退したことを考えれば、この思惑は失敗に終わったことが分かります。
もう一つは、同氏の頭の中に先進国の金融緩和策である可能性です。トルコリラがアメリカの量的金融緩和の余波で下落を続けていることは周知の通りです。対抗策として、トルコも先進国と同じく緩和路線に進むべきだ。このような発言が同氏の口から飛び出したことがありました。もしかしたら、大統領なりに金融緩和策を検討しているのかも知れません。
無論、トルコの金融緩和策はは無謀です。破綻することは自明でしょう。緩和策のための準備資金がアメリカの足下にも及ばないないためです。万が一、量的緩和を目指すようなら、インフレ率が一気に進んで一発アウト。おそらくは、かつてジョージソロスによって叩きのめされたイギリス銀行と同じ道を歩むことになるでしょう。リラ高どころか、世界中のヘッジファンドが一斉にリラ売りに殺到してしまいます。
2015年11月再選挙に向けての思惑
最後に、今回の記事を書いた理由について少々。11月に控えるトルコ国会の再選挙に関しての話題です。前回の選挙では、与党AKP党が過半数割れを起こしました。すったもんだがあって再選挙の運びになった訳ですから、大統領としては巻き返しを図るのが当然の思惑でしょう。どうやら、大統領権限を強化すべく、与党の独立過半数に対する強いこだわりがあるようです。
エルドアン大統領率いる与党の公正発展党(AKP)は6月の総選挙で過半数議席を失い、連立相手を探している。各党は23日までに実務内閣の設立に合意するよう求められており、合意に至らなければ大統領は再び総選挙を行う可能性がある。
そうした中でトルコ軍は1週間前、シリアとイラクにあるPKKとイスラム国の拠点に対する二正面作戦を開始。トルコ政府とPKKの和平交渉に長く反対してきた愛国主義の野党、民族主義者行動党(MHP)はこれを歓迎し、AKPとの連立を支える可能性を示し始めた。
しかしエルドアン大統領はアジア訪問に際して同行記者団に対し、もろい連立政権は危険だと訴え、単独過半数政権の利点を強調した。
クルド人とトルコの敵対関係について
直近では、エルドアン氏は国内のクルド労働党を批判の対象にすることで支持を得ようとしているようです。トルコ人は長い歴史の中で、クルド人と敵対関係にありました。クルド労働党から票を奪えば与党が勝つという思惑なのでしょうか。
トルコとクルドの対立構造は、ISIS(イスラム国)との戦争・空爆にも現れています。クルド人は、旧来のトルコ人の敵対勢力です。ですが、シリア国内のクルド勢力はイスラム国の敵勢力です。敵の敵なら、本来、味方になり得る勢力です。しかし、トルコは空爆の対象をクルド勢力まで巻き込んで攻撃対象としています。もう、ISISの殲滅作戦なんだか、クルド人の糾弾なのだか、目的が分かりません。メディアの中には「空爆はトルコ国内のクルド人の勢力を削ぐ目的があるようだ」と批判する金融紙もあります。
純粋に為替レートの上昇のみを目的に考えれば、次回の再選挙は与党勝利が安定に寄与します。ただ、トルコ民主化の道を探るには、政権交代も必要悪なのかも知れません。トルコ経済のより一層発展のためには、そろそろポスト・エルドアンが必要なのではないでしょうか。トルコが次の時代に進むための重要事項。それは、過去のリーダーとの決別なのかも知れません。
※今回の記事は、管理人個人の意見を主張したものです。途中挟まる推測・憶測は事実と異なるかもしれません。悪しからず。