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トルコ中銀(TCMB)の通貨防衛手段と利上げ期待

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2016年の年末より、トルコ中銀(TCMB)は通貨防衛に舵を切っています。最初のアクションは11月に発表された政策金利0.5bpsの引き上げ。それに続けて通貨スワップの入札や、外貨供給・リラ緊縮の流動性操作(オペレーション)を実施していることも明らかになりました。これらは事実上の為替介入です。

中銀による為替介入が報道されたことで、トルコリラの下落トレンドはとりあえずの底打ち。ただ、市場では未だ為替介入の効果に対しては疑問視する声も。今のトルコ中銀に期待されている一番の防衛策は、明日に控える政策金利発表での利上げでしょう。

今回は、トルコ中銀が実施している通貨防衛(為替介入)の手段と利上げ観測(予想)の根拠を解説していきたいと思います。

インフレ加速で通貨防衛

2016年の年末から、トルコ中銀が通貨防衛に舵を切りました。最初のアクションは、11月に発表された政策金利の利上げ(7.5%⇒8.0%)です。これを受けて、トルコリラの下落トレンドは持ち直すかと思いきや、期待虚しく下落を続けるという憂き目に遭いました。「利上げしたから下落」ではなく「利上げしたのに下落」という表現が適切でしょう。ファンドの決算時期と重なったことが裏目に出ました。

参考:2016年の振り返り~暴落メカニズムとその後の見通し

そこに加えて、経済指標の悪化がリラの下落に拍車を掛けます。12月の経常収支で赤字幅の拡大、年初に発表された消費者物価指数(CPI)が大幅増加(=インフレ加速)という結果が発表されました。結果、利上げ後にあってもトルコリラの為替レートは対ドル基準で20%超の下落幅を記録しています。

トルコ中銀だって何もしていなかった訳ではありません。その事実が公にされ始めたのが年明け1月10日以降。「市場介入を辞さない構え」というチェティンカヤ中銀総裁の声明と共に、債権オークションに参加せず、リラの供給を引き締めていた事実が明らかになりました。この声明以降、直接の為替介入を含めていくつかの通貨防衛策が取られていたことが明らかになっています。

通貨防衛の具体的手段

新興国の通貨防衛策と言えば、政策金利の調整や直接の為替介入が一般に知られています。ただ近年、ブラジル中銀を始めとして、非伝統的手法(unconventional measures)と呼ばれる介入手段が取られるようになってきました。直接的ではなく、間接的な市場介入を行なう方法です。

トルコ中銀もこれに倣ってか、非伝統的な介入手法を織り交ぜてきています。やや、メカニズムが複雑なのですが「市場への通貨供給を減らす」という点では古典的手法と一致します。以下には、古典的手法・非伝統的手法を合わせて、トルコ中銀が取っている介入手段を解説します。

政策金利の引き上げ

兼ねてから話題になっている、利上げによる通貨安抑制策です。利上げにより通貨安が抑えられるのは、市場に出回る通貨の量が減るためです。政策金利が上がれば、銀行の貸し出し金利も上がる訳で、トルコ国内の消費者(企業・個人)は利子を嫌って借り入れを控えます。一般に知られる、メジャーでスタンダードなインフレ抑制の手段です。

投機筋から見た場合も、リラ売りに対する抵抗感を持たせる要因になります。売りポジションを作るという行為は、通貨を「借りて」売る行動ですから、借りている間は金利を支払わなければなりません。取引コストがかさむため、利益が目減りしてしまいます。

問題は、金利の引き上げは経済成長を停滞させてしまうことです。エルドアン大統領率いるトルコ与党は、(少なくとも表面上は)この論理に基づいて利上げに対する反対策を唱えています。ただ、通貨安は輸入コストを引き上げますから、国の経常収支で見た場合はこの限りではありません。経済状況に応じた時事時々の対応が必要であると言えます。

債権オークションへの不参加

通貨安対策の基本として「通貨の供給を減らす」行為が必要だと書きました。そんなリラの供給量を減らす方法の一つが、債権オークションへの不参加でしょう。簡単に言って、国が発行する国債を中銀が「買わない」という対応策です。中銀が発行する紙幣が市場に供給されませんから、市場に出回る通貨の供給量が減ります。また、債権価格が下がるので表面利回りが上がり、それに順じて決まる市場金利も上がるメカニズムが働きます。

日米欧で取っている量的緩和の「逆」をやっていると説明すれば分かりやすいでしょうか。先進国の緩和策では、各国の中銀が高値で国債を買い占めて通貨をじゃぶじゃぶに供給しています。これによってインフレ傾向を強め、デフレ脱却を図ろうというのです。新興国は逆にインフレに苦しんでいますから、通貨の供給を減らして相対価値を高めようという試みをする訳です。

トルコ中銀は、短期債権(1週間ものレポレート)に入札しないという対応を取りました。この事実が公になり、直近のリラ安トレンドに歯止めが掛かりました。後述する利上げ観測も、この事実を元に発生しています。

通貨スワップの入札

通貨スワップというのは、デリバティブ商品のひとつです。株や為替で知られる用語で言えば「オプションの取引」と表現した方が分かりやすいでしょうか。一定の手数料を払うことで、現在の為替レートのまま将来の外貨両替ができるようになるという契約です。

一般には、企業が外貨調達を必要とする場合に、為替変動のリスクヘッジを掛ける手段として活用します。通貨スワップの契約を行えば、海外の企業活動で得た利益を受け取る場合も、将来に借り入れ資金を返済する場合にも、契約時点の為替レートで外貨を両替することが可能になります。契約者の企業から見れば、将来的に自国通貨が値下がりしても為替差損が発生しないという寸法です。為替差益も発生しませんが、健全な企業活動には予め計画した通りの収益を上げることが重要であったりします。

トルコ中銀が通貨スワップのオークションに参加したのは、海外に発信する外貨買いの需要を肩代わりするためです。例えば、ドル・トルコリラの通貨スワップで言えば、契約が売れた時点で海外へのドル買い需要が発生します。トルコ国内から海外に対してドルの需要が発信されればドル高となり、リラのレートは相対的に下落してしまいます。これを止めたい中銀としては、市場の需要家に代わってオークションで落札してしまい、ドル買い需要を国内に留めておきたい訳です。

ただ、通貨スワップを買い占めてしまうので、トルコ国内に残っている外貨需要は満たされていません。そこで、中銀は外貨準備高を切り崩し、その分を市中の銀行に貸し付けるという方策を採ります。ドルの流動性を十ニ分に確保してやれば、国内のドル需要が満たされるばかりか、ドル余りによってその価値が下落します。実質的なドル売り行為となる訳です。

為替介入と流動性オペの効果

上記の通り、今回はトルコ中銀が取っている通貨防衛・為替介入の手続きについて解説を行ないました。実はこうしたオペレーションは、2014年からブラジル中銀が先行して採用しています。先進国でも、流動性オペは欧州中央銀行(ECB)が得意とする所でもあり、かつて円高であった頃は日銀も同様の手段を採っていました。トルコ中銀のチェティンカヤ総裁は、そうした先行事例を参考にして、金融政策に組み込んだのであろうと考えます。

もっとも、こうした為替介入の手段に効果があるのか?という疑問が常に付きまとってきたことも事実です。ブラジルの例で言えば、結局の所、政策金利の大幅な引き上げに踏み切り、最終的にレアル安が転換したのは2016年です。ECBや日銀についても同様で、為替レートが彼らの期待した値動きを見せたのは、両国の量的金融緩和策が行われて以降の傾向です。

期待される政策金利の引き上げ

現在のトルコリラの為替レートは落ち着きを取り戻してはいます。ただ結局、マーケットがトルコ中銀に求めているのは政策金利の引き上げなのでしょう。それを思わせるかのように、チャートは恐る恐るリラ高を期待するかのような値動きを見せています。この記事を編集している本日2017年1月24日の21:00には、トルコ中銀の政策発表が予定されています。

個人的には、政策金利を予想するという行為には重きを置いておりません。ただ、前任のバシュチュ総裁の時代にも同様のシチュエーションがあり、当時は大幅な利上げ(8.5%⇒12.0%)を実施しました(2014年1月)。現任のチェティンカヤ総裁は当時から既にNo.2の座にあった人で、今回も過去の流れを踏襲するであろうことが予想されます。実際、市場が想定しているコンセンサスは+0.5bpsの利上げです。

トルコリラ対ドルの4時間足チャートでは50期間移動平均線を挟んで下値を伺う値動き。これは、トレンドの大転換を示唆する典型的なチャートパターンです。

利上げ期待が掛かるトルコリラ

管理人個人のトレード計画として、このタイミングでリラ買いポジションの積み増しを検討しています。1月24日の21:00に大きなリラ買いの値動きがあれば、そこに素直についていけば良いと考えます。

※本記事は内容の正確性を保証するものではありません。また、内容の一部には筆者個人の主観が含まれます。FXは自己責任です。本記事は読者にいかなる取引の強制をするものではありません。

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